【イリオモテヤマネコ】水に潜るネコ⁈面白い生態と絶滅危惧種の原因

ベンガルヤマネコの画像

▲Top画像:Kuribo

西表島に生息している事で有名なイリオモテヤマネコ。
可愛らしい姿でとても人気ですが、現在イリオモテヤマネコは絶滅の危機にあります。

今回はそんなイリオモテヤマネコの絶滅危惧種指定の原因、生態や特徴、西表島で行われている保護活動について見ていきましょう。

イリオモテヤマネコとは

イリオモテヤマネコ(西表山猫)は、ネコ科ベンガルヤマネコ属に分類されるベンガルヤマネコの亜種。

ベンガルヤマネコ
画像:Pontafon

24万年前から2万年前の間に大陸から琉球諸島へ渡り生息していると言われています。
1965年に沖縄県八重山郡島の西表島で発見され、国の特別天然記念物、国内希少野生動植物種に指定されています。
また、西表島では現地の方言で「ヤママヤー」(山にいるネコ)、「ヤマピカリャー」(山で光るもの)、「メーピスカリャー」(目がぴかっと光るもの)などと呼ばれ親しまれています。

イリオモテヤマネコが発見、発表されるまでの経緯

当初、イリオモテヤマネコは西表島のイエネコが野生化したものだと考えられていました。

その当時、西表島では食料難に見舞われており、捕獲されたヤマネコは食料になっていました。そのため研究者は埋められたヤマネコを掘り起こし、骨や糞、皮などを採取し研究をしていました。
1962年にイリオモテヤマネコの幼獣が発見捕獲されます。ですが成獣の標本は入手までは至っていません。

この時点では新種、新亜種のヤマネコである可能性があるという微妙な鑑定結果。研究材料も少なかった為、完全な生体、標本の入手を必要としました。

西表山猫のはく製
画像:Hiroshi Kibe

ですがイリオモテヤマネコは西表島の猟師によって捕獲されるのは稀で、多くて年に1、2頭ほどと非常に少なく、なかなか捕獲される事が無かった為、遂にはヤマネコの生体に100ドル、死体に30ドルもの懸賞金をかけられた事もありました。

その甲斐あってか次にヤマネコが捕獲されたのは1965年。
島の南部にある滝、通称『マーレー』と呼ばれる小さな滝の下で弱っているオスのヤマネコを発見、捕獲。
また翌年、1966年には仲間山付近でメスが捕獲されています。
2頭は発見者が保護、飼育を2年間した後、国立科学博物館に移され生態を観察されました。

1967年5月哺乳類動物学雑誌にて新種の猫として発表。
ネコ科の祖先的な分類群であたるメタイルルス属(Metailurus)に近い新属新種として英文でイリオモテヤマネコが発表されました。

イリオモテヤマネコ見た目の特徴

イリオモテヤマネコの体長は50センチ〜60センチ、体重は3〜5キロ。一般的な猫(イエネコ)とあまり変わりません。

一般的な猫(イエネコ)より顔がワイルド

額には縦じまが入っており、目の周りには白く隈取りされた様になっているので少し目付きがキツく見えます。
イリオモテヤマネコは一般的な猫に比べて耳が小さく、丸くなっているので目の存在感がとても強く顔がワイルドな感じに見えてしまいます。

イリオモテヤマネコのはく製
画像:Purplepumpkins

胴長短足でかわいい

イリオモテヤマネコはマンチカンの様に胴長短足です。
体に入っている模様も斑点模様になっていて胴長短足、耳も小さく丸い為、見た目はヒョウや、ピューマなどの肉食動物の子供の様な可愛らしい見た目です。

胴長短足と言う残念な特徴もネコならプラス要素に出来てしまいますね!

イリオモテヤマネコの生態

イリオモテヤマネコは夜行性。昼は森の中の木陰や岩穴などでのんびり寝ています。夜になると主に縄張り単位で行動しています。

極端に狭い生息地

名前の由来にもなっている通り、イリオモテヤマネコは沖縄県の西表島にのみに生息しているベンガルヤマネコ。西表島の中でも主に山麓から海岸にかけての低地部分で生息しています。
西表島の低地には河川や沢があり水も豊かです。またマングローブや、湿地林など多種多様な植物が混在しています。

西表島のマングローブ
画像:BenedettaR

ネコ科などの肉食動物がイリオモテヤマネコの様に、西表島という比較的狭いエリアで生息して来たのは世界的にも珍しいとされています。

かなりの雑食!意外とグルメ

猫の餌、食べ物といえばキャットフードや、魚、ネズミなどの小型の哺乳類などを連想しますよね。
ですが、イリオモテヤマネコは一般的な猫と違い、雑食性でネズミや魚はもちろん、ヘビなどの爬虫類や、カエルなどの両生類、カニなどの甲殻類など幅広く餌としています。

ベンガルヤマネコの横顔
画像:Stavenn

西表島などの小さい島では在来のネズミや小型哺乳類の数はあまり多くはありません。
ですが西表島は水が豊かで多種多様な植物、動物が生息している為イリオモテヤマネコは生きていく為に雑食性に優れていったと考えられます。
また、イリオモテヤマネコの体臭が強いのはこの雑食性が原因だと言われています。

猫なのに水に潜れる⁈

イエネコを飼った事のある方は経験があると思いますが、猫を洗おうとすると爪を立て暴れるほど水を嫌いな猫が多く、洗うのに苦労しますよね。
ですがイリオモテヤマネコはネコ科の動物なのに水を怖がらず川に飛び込み潜水して魚や、鳥などを捕まえます。
水を怖がらなくなったのも西表島の環境に適応した為だと考えられています。

イリオモテヤマネコ絶滅危惧種の指定

イリオモテヤマネコが国指定の天然記念物、絶滅危惧種に指定されている事はご存知の方も多いとおもいます。
イリオモテヤマネコは沖縄の本土復帰後に国指定の天然記念物に指定され、その後特別天然記念物、1994年に種の保存法により国内希少野生動植物種に指定されています。
種の保存法は種ごとに分類が分かれており、国内希少野生動植物種の他に『国際希少野生動植物種』、『緊急指定種』、『特定国内希少野生動植物種』がありそれぞれの種で内容が異なります。
国内希少野生動植物種は日本で生息する種の中で絶滅の恐れがあるものに対し指定されており、政令で定められています。

ベンガルヤマネコ
画像:F. Spangenberg

現在イリオモテヤマネコの生息数は年々減少していると言われており、現在は100~110匹と推定されています。
また、環境省のレッドリストでは絶滅危惧IA種に分類されている為、今後絶滅の可能性が高い動物として指定されています。

イリオモテヤマネコの生存数の減少の原因

絶滅危惧種に指定されているイリオモテヤマネコは近年生存数が減少傾向にあると言われています。
その原因は以下の要素が絡んでいます。

開発による生息地の減少

西表島には星型の砂粒が有名な『星砂の浜』、神の島の聖地と言われている『月ヶ浜』、東洋のガラパゴスと呼ばれる西表島独特のジャングルが見れる『南風見田の浜』など西表島には素敵な観光スポットがあります。

西表島の海岸
画像:Paipateroma

ですが、西表島が観光スポットとして人気があるが為に、島の観光リゾートとしての観光開発が行われているのも現状。
観光地近くには宿泊施設が建ち並んでいます。
また、道路改修や大規模な農地造成などを繰り返し決して広いとは言えない西表島で人間による開発が進み、イリオモテヤマネコが好む森林などが減っています。

観光開発や、道路改修などの人間の都合でイリオモテヤマネコの主な生息地である森林が減少している為、ヤマネコが住みづらくなっています。

交通事故

イリオモテヤマネコの生存数減少の原因の中で一番深刻な問題となっているのが交通事故。
西表島では1978年〜2018年の間イリオモテヤマネコに関する交通事故は83件確認されています。

交通事故が多発する原因としてあげられるのは以下の通り。
西表島では唯一の幹線道路が沿岸部沿いを走っています。
この幹線道路がイリオモテヤマネコの生息地に近く、行動圏内を横切っている為ヤマネコは道路を横断しようとし事故に遭います。

県道215線
画像:Paipateroma

また、ヤマネコの発情期が冬である為、冬の時期になると活動的になったオス猫や、比較的若いネコの交通事故が多発します。
他にも道路で轢かれた生物を捕食するために道路に飛び出してしまい事故に遭う事などもあります。
西表島には他にも希少動物が生息しており、イリオモテヤマネコ以外の希少動物の交通事故も多いのが現状です。
その為環境省や、沖縄県によりヤマネコの飛び出し注意を促す道路標識や動物用トンネル、ゼブラゾーン(振音舗装)の設置などの交通事故対策が施されています。

ゼブラゾーンとヤマネコ注意の標識
画像:Paipateroma

外来生物、生物間の問題

外来生物が生態系、農林水産業に被害を与えているのは世界各地で深刻な問題になっています。
西表島に分布している外来生物オオヒキガエルは害虫駆除を目的として石垣島に導入された中南米原産の大型のカエル。
オオヒキガエルは高い繁殖能力を持ち雑食で小動物などを無差別にに捕食するため、西表島の生態系を乱してしまう恐れがあります。また、オオヒキガエルは耳腺などから毒性の強い液体を分泌するためヤマネコなどが捕食し、死亡してしまう可能性も危惧されています。
オオヒキガエルは西表島では定着はまだ起きていませんが、物資などに紛れて侵入することもあります。2017年5月には1匹が捕獲されています。

オオヒキガエル
画像:Froggydarb

イリオモテヤマネコは他に野良犬などによる捕食や、他の野良猫、飼い猫による伝染病、食物の奪い合いなどによる個体数減少も危惧されています。
またイエネコなどとの接触により感染するネコ免疫不全ウイルス感染症(ネコエイズ)も懸念されています。
ネコエイズは1999年に野生生物保護センターにより調査が行われました。この際イリオモテヤマネコからは猫免疫不全ウイルス(FIV)は検出されませんでしたが、飼い猫、野良猫から3匹ほど検出されました。
ネコエイズがイリオモテヤマネコへの感染が懸念された為、2001年に飼い猫の登録を義務付け、厳しく管理する『ネコ飼養条例』が制定されています。

イリオモテヤマネコを観れる動物園は?

西表島に行ったなら一度は見てみたいイリオモテヤマネコ。ですが残念ながら現在イリオモテヤマネコを観れる動物園はありません。
またヤマネコは普段森の中に潜んでおり、出現頻度も低い為、旅行中などの短い時間で見ることは難しいでしょう。
動物園ではありませんがイリオモテヤマネコや、絶滅危惧種、希少動物の研究、観察、保護を目的として設立された西表野生生物保護センターに以前保護されていたイリオモテヤマネコの剥製が展示されています。

イリオモテヤマネコのはく製
画像:VKaeru

現在は生きた個体は保護されていません。
他にも西表島の保護、研究中の希少動物の映像や、イリオモテヤマネコの過去の映像があります。
保護中のイリオモテヤマネコがいれば生きたヤマネコを見れるかもしれません。

イリオモテヤマネコを捉えた貴重な映像がありました。

まとめ

イリオモテヤマネコについて紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
西表島のマスコットキャラ的な存在のイリオモテヤマネコですが、絶滅の危機にあります。
イリオモテヤマネコだけではなく、他の絶滅危惧種、希少動物を守っていく為に私たち人間も生き方を考えるべきなのかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください