【イッカク】ツノは牙?面白い生態と角の役割!絶滅危惧種の実態とは

海のユニコーンと言う異名をも持つイッカク。
近年までその存在を一部にしか知られていませんでした。
今回はユニコーンの様に角があるイッカクの面白い生態などを紹介します。

イッカクとは

イッカクは偶蹄目(現在は鯨偶蹄目もあるようです)
イッカク科イッカク属に分類されます。
このイッカク属はイッカクのみで構成されています。

イッカクのイラスト

イッカクは姿形はアザラシなどに似ていますが、実はクジラの仲間で海生哺乳類にあたります。

イッカクの名前の由来は見た目通りの一つだけ生えている角『一角』から由来していると言われています。

イッカクの特徴

次はイッカクの特徴について見ていきましょう。

頭から突き出ている大きな角

イッカクと言えばまず、頭から生えた大きな角をイメージ出来ると思います。
ですが生えているのは実際は角ではなく、イッカクの上顎に生えている切歯です。2本ある切歯の左側だけがグングン伸びていき上唇を突き破り角の様になります。

イッカクの骨
画像:Pcornill

オスに生えているキバは大きいもので約3メートル程にもなります。
メスは基本的にキバは埋もれていて見えませんが、約15%の確率で1.2メートル程の短いキバを持つ事もあります。

この牙は左方向に螺旋状の溝があり、先端の方は色が白いです。
牙の中の大半は空洞になっていて非常に脆く、一回折れてしまうと再生される事はない為、再び伸びる事はありません。

シロイルカと似ている

イッカクは胸びれが短く、胸びれから先は上の方に反っていて、背びれはありません。
また尾びれは膨らみを持った扇状になっていて、中央に切れ込みが入っているのが特徴的。

体色は青白く所々に茶色の斑点模様があり、頭部や尾びれの縁などは黒くなっています。

成長し老化していくにつれて模様が白く変化していき、老齢の個体になるとほぼ真っ白になります。
老化して白くなり、キバが確認できない個体はよくシロイルカと間違えられる事もあるようです。

イッカクの生態

つぎは、イッカクの生態を見ていきましょう。

イッカクの生息域

主に生息している海域は北極海の北緯70度より北側。
またその中でも多数の個体が生息しているのはカナダの北側や、グリーンランドの西のフィヨルドなどで生息していると推測されています。

イッカクの生息地
画像:Nordelch

またイッカクは季節に合わせて回遊します。
夏の暑い間は海岸近くの比較的浅い海域に移動し、冬になり海の凍結が始まると海岸から離れ,氷に覆われた海域に移動、春から夏にかけて海岸近くに戻ってきます。

イッカクはハーレムを作る

イッカクは5頭〜10頭程度の群れを作ります。

イッカクの群れ

繁殖期にはオス同士が牙を使って争います。
この争いは牙で傷つけ合う争いではなく、主に牙の長さや牙を持ち上げた角度で優劣を競っているようです。
この争いに勝った雄は多数の雌を従えます。
まさにハーレムです。

イッカクは潜水が得意

イッカクは潜水を得意しています。
潜水、降下を始めると約8分〜10分程で約1000m程度の深海まで潜水します。
最高で1164mまで潜水した記録があり、潜水時間は通常20分程度ですが、25分間潜水した記録もあるようです。

イッカクはクジラ?イルカとの違い

まず、クジラとイルカの違いは何でしょう?

シロイルカとイッカクは同じ『イッカク科』に属していますがイッカクは『クジラ』、シロイルカは名前の通り『イルカ』と呼ばれています。
ですが、実はイルカとクジラには生物の分類では明確な線引きがありません。

イッカクとシロイルカのイラスト

色々な種類がいますが、大きく分けて『ハクジラ』、『ヒゲクジラ』という2つに分けられます。
この中のハクジラの中でも体長約4メートル以下をイルカと呼んでいます。

ハクジラに属するイッカクの体長はオスで約4.7m、メスで4.2mにまで成長する為、イッカクは『クジラ』になります。
シロイルカもハクジラに属します。
体長は約5.5mと大きいですが、姿形がイルカと似ていることから『イルカ』と呼ばれています。

このようにイルカとクジラには明確な線引きがなく、かなり曖昧な分類になっています。

イッカクの面白い豆知識

イッカクの牙はユニコーンの角として流通していた

今でこそイッカクの存在は明らかになっていますが、19世紀頃まではイッカクはその存在を確認されていませんでした。
イッカクは北極圏の一部で生息しています。
あまりにも寒い所にいるため人は近づかず、その存在を知っているのはイヌイットや、船で世界を回っていた商人だけでした。
中世ヨーロッパではユニコーンの角には解毒作用があると考えられていた為、商人達は主にヨーロッパなどでイッカクの牙をユニコーンの角と偽って売買していたようです。

イッカクの角
画像:Science Museum、London

角は漢方薬としても用いられていて、日本にも江戸時代にオランダ商人からの流通があったようです。
またこの時イッカクの牙は金よりも高値で取り引きされていたようです。

牙が2本出ているイッカクがいる

イッカクは名前の通り、通常角は1つしか生えていませんが約500頭に1頭程度の割合で牙が2本伸びる個体がいるようです。

イッカクの2本の角
画像:Seobe

基本的には左の切歯が伸び出てきて角の様になりますが、この個体は右の切歯も伸び出てきています。
通常牙が伸び出ない雌でも牙が2本伸び出ている個体が確認されています。

イッカクは首を動かす事ができる。

哺乳類には通常首の骨が7つあります。
クジラの仲間達は、この7つの骨のいくつかがくっついていて、首をうまく動かせません。
対してイッカクは7つの骨がくっついていない為、首を動かすことが出来ます。

イッカクの肉は栄養満点!?

現在イヌイットによるイッカクの捕獲は法律により許可されています。

イヌイットとイッカク

イッカクの皮膚や皮下脂肪にはビタミンCが豊富に含まれている為、イヌイットの貴重な栄養補給源となっています。

イッカクの神話がある

イッカクが生息する海域はヨーロッパの人々にとってはあまり近づかない所であったため、19世紀頃までイッカクはユニコーンと同じ伝説の動物だった様です。
当時イッカクの存在はイヌイットとの交易により伝わっていました。

イヌイットの間では女性が銛を持ったまま海に引きずり込まれ、その後シロイルカにくるまれ、銛はキバとなってイッカクになったという神話があったようです。

イッカクの牙(角)の役割

イッカクは臆病な性格で、飼育も難しい為詳しい生態が分かっておらずツノの役割については複数の説が存在します。

生息海域を覆っている氷に穴を開ける説や反響定位(エコーロケーション)の為に発達した説などがあります。
その中でも現在役割として有力な説を紹介します。

海から突き出し外気の状態を確認している

最近になってイッカクの牙には、多くの神経が牙の内側から外側にかけて通っている事が明らかになっています。
この牙を海面から突き出す事により空気中の湿度や温度、気圧の変化を測っていると考えられています。
周りの環境の変化を感じ生存環境を保っているのでしょう。

イッカクの絵

ですがこの説は少し疑問が残ります。
種の繁殖に必要不可欠のメスが同じ特徴を持っていない為です。
メスは牙が突き出る事は稀でほとんどの個体は牙を持ちません。
ですのでこの説は現在疑問視されています。

オス同士の争いなどに使う

この説はイッカクの繁殖期にたびたび目撃されている説です。
牙で傷つけ合う様な争い方ではなく、オス同士で牙を海面から高く突き上げて争います。
牙がより長い方が雄としての魅力があるという事でしょう。

また牙の長さは睾丸の大きさと比例すると言われています。

獲物を捕らえる時に使う

イッカクは警戒心が強く、臆病な性格をしている為
狩り、捕食の様子を捉える事が出来ませんでした。
最近になりようやく撮影に成功したようです。
その貴重な時間動画はこちら。

動画0:11〜捕食シーン。

イメージとは違い獲物を牙で突き刺さずに、叩いて失神させて捕食しているようですね。

イッカクは絶滅危惧種?

イッカクはワシントン条約附属書Ⅱに掲げられています。
附属書Ⅱに掲げられているイッカクは絶滅の恐れはありませんが違法な手段での捕獲、取引を規制されてる準絶滅危惧種にあたります。
生息数の減少の要因として考えられるのは、地球温暖化により生息海域の氷が溶けだしてしまい、今までは侵入する事のなかった天敵のシャチが生息域に侵入していることが考えられます。

人間がイッカクに対しての脅威となっている

イッカクは非常にストレスに弱い動物であり、人間に対してのストレスで脳が損傷する恐れがあると考えられています。

イッカクのシルエット

通常動物は危機に瀕すると『闘争』と『逃走』、『すくみ』の内1つの反応を示します。
ですがイッカクの場合、『逃走』『すくみ』の2つを同時に示す事が最近の研究で明らかになっており、発表もされています。
この2つの反応を同時に併発するのは生理学的に相反しているのだそうです。
通常の遊泳で必要な酸素が供給量の53%程の酸素量しか使いませんが、危機に直面すると呼吸を止めたまま深海へ逃げようとします。
その時の酸素の消費量は供給量の約97%にも及ぶと言われており、血液中の酸素も薄れてしまう程です。
その為、脳やその他の主要な器官への酸素の供給が上手くできず、体に大きな負荷がかかってしまいます。

酸欠のイメージ

また、捕食者のシャチやホッキョクグマに対しては,侵入できない深度や領域まで逃避すればいいのですが、研究の為の超音波、地震調査などで発生する不快音はイッカクにとっては脅威となっています。

氷が溶ける事で人への接触も増える可能性があります。
イッカクだけに言えることではありませんが、地球温暖化が進むと種の存続は厳しくなるでしょう。