可愛らしい顔にまん丸の目、丸っこい身体のフォルムに可愛らしい表情を見せてくれる水族館の人気者アザラシ。
ゆるカワな動物として人気ですが、同じアザラシの仲間にはそんなアザラシのイメージを覆す怖いアザラシが存在します。
それが今回紹介する『ヒョウアザラシ』。
南極最強の捕食ヒョウアザラシの知られざる生態、天敵についてみていきましょう。
ヒョウアザラシとは
ヒョウアザラシ(英名 Leopard seal)は食肉目アザラシ科ヒョウアザラシ属に分類される鰭脚類。
ヒョウアザラシ属はこの種のみで構成されます。
ヒョウアザラシは主に南極大陸周辺で生息していますが、暖かい海域を好む個体もいるようで、オーストラリアや、ニュージーランドなどでも目撃されているようです。
ヒョウアザラシは名前の通り『アザラシ』の仲間です。
ヒョウアザラシの『ヒョウ』この名前は見た目に由来しています。
灰色の体色に不規則にある黒い斑点がある為、色は違いますが見た目はネコ科のハンター『ヒョウ』を思わせます。
ヒョウアザラシは見た目が『ヒョウ』に似ているだけではなく、アザラシの可愛いイメージに似合わない獰猛さを持っていて『南極の王者』とも呼ばれているそう。
南極の王者とも呼ばれるヒョウアザラシは、生まれたばかりは体長約1m〜1.6m、体重は約30kg〜40kgと思っていたより小さいですが、成長するとかなり大きくなります。
成体の体長は約2.8m〜3.6m、体重はオス300kg、メスは500kgになり、ナンキョクアザラシ族の最大種となります。
ヒョウアザラシは他の種のアザラシと比べると頭、身体が細長いのが特徴的で、丸みがあるアザラシの印象とは違って見えます。
頭は大きく、成長するとハイイログマよりも大きくなるそうです。
ヒョウアザラシの生態
ヒョウアザラシは基本的には南極大陸周辺の流氷や海中、孤島に生息しています。
アザラシといえば群れている様子を想像すると思いますが、ヒョウアザラシは群れを成すことも無く単独で行動します。
ヒョウアザラシは動物食(肉食)で、ナンキョクオキアミを主食としているようですが、他にもイカ、魚類、ペンギンなどの鳥類も食べると言われています。
それだけに留まらず、同じ海域に生息しているカニクイアザラシの幼獣や、ミナミゾウアザラシ、ナンキョクオットセイをも捕食するといいます。
この食性はアザラシとしては珍しく、アザラシ科の動物で唯一『恒温動物』を食べる種のようです。
またヒョウアザラシは哺乳類ですので胎生、年に1度(10月〜11月)1頭の子供を産み、1か月程の授乳期間を経た後オスは4年半、メスは4年で性成熟し、成獣となります。
ヒョウアザラシの捕食
鋭い牙と強靭な顎、しなやかで自由に動く首を持ったヒョウアザラシは狩りが上手。
その手法は独特で、海底の岩陰に隠れて擬態し、獲物が来るのをじっと待つのだそう。
まずヒョウアザラシは南極周辺の流氷を泳ぎ回り獲物を探します。
主食でもあるペンギンの巣を見つけると近くにある浅瀬で岩に隠れじっと待ちます。
そして…ヒョウアザラシの存在に気付かず近づいたペンギンの足にガブリ!と噛み付き、激しく振り回し海の中へと引きずり込みます。この手法で多い時は1日に12羽ものペンギン達を捕食します。
捕食されてしまうペンギン達は若い個体が多く、岩に擬態するヒョウアザラシがいるという知識が無い為、不用意に近づいてしまい捕食されるようです。
ペンギンが好きな方は見ない方がいいかもしれません。
この手法でペンギンだけでは無く、海面に餌を求めて近づいてくる海鳥なども捕食します。
ヒョウアザラシの狩りの方法はこれだけではありません。
個体ごとに狩りの方法に違いがある事が最近になって明らかになっていて、海底の岩陰などに潜む魚を追い出し捕食する個体もいれば、海を泳ぎ回り獲物を追いかけ捕食する個体もいます。
泳ぐ速さは時速約40kmで泳ぐとも言われていますから、標的にされると逃げきる事は難しいでしょう…
画像:Flickr
他にも獲物を丸ごと食べてしまう個体もいれば、頭は残し身体だけを食べる美食家もいるようです。
ヒョウアザラシの天敵は『シャチ』なのか?
南極の王者とも呼ばれるヒョウアザラシですが時には捕食される側に回ってしまう事もあります。
ヒョウアザラシの天敵として挙げられるのは『海のギャング』と呼ばれる『シャチ』や大型のサメ。他には同じアザラシ科の最大種『ゾウアザラシ』によって殺されてしまった事が過去にあったようです。
シャチやサメなどは南極大陸周辺の海域に留まらず世界中の海域に生息していますので、ヒョウアザラシと接触する機会もあまり無いようで、シャチに捕食された例は稀であるとされています。
また、最近になってヒョウアザラシ同士が獲物を巡って争う事がわかったようです。
今までは水中で何をしているのかを知る術が無かった為、連携をして狩りをしていると考えられていました。
ですが実際は、獲物を食べている同じヒョウアザラシに近づき、顔をめがけて噛み付くなどの攻撃的な行動を起こしていた様です。この様に獲物を巡って争う事は少なくはないようです。
南極周辺に生息している中での天敵を考えるとシャチや、サメなどでは無く同じヒョウアザラシが一番の天敵なのかもしれません…
ヒョウアザラシは人間を襲うのか
南極という極地に生息するヒョウアザラシは人を襲う事はあるのでしょうか。過去にはヒョウアザラシによる事故もあった様です。
画像:Flickr
1985年、スコットランドの探検家が南極の氷の上を歩いていると、突如ヒョウアザラシが足元の氷を突き破り足に噛み付きました。
その場にいた仲間たちの救助で命には別状は無かった様です。
また、2003年には南極半島部で潜水をしていたイギリスの海洋学者が噛みつかれ、海の中へと引きずり込まれてしまい、必死の救命も虚しく死亡したようです。
ヒョウアザラシの死亡事故は1件しか明らかになっていません。
そもそも南極と言う極地に人間がいる事が珍しいでしょうから、ヒョウアザラシはペンギンなどの捕食対象だと思い襲ったのでしょう。
南極の王者ヒョウアザラシ
アザラシの仲間とは思えぬ獰猛さを持ったヒョウアザラシですが頭も良いようで、獲物を一度に食べてしまわずに、海底に食料を隠して保存食を作っている事が最近の研究で分かったそうです。
他にもヒョウアザラシの写真を撮るために潜水していた写真家いました。写真家を同類のダメな個体だと思ったのでしょう、獲物のペンギンを分け与えるなどの行動をした記録もあるようです。
ヒョウアザラシは生息圏内に天敵が存在せず、その獰猛さに加え知能もあるまさに『南極最強の捕食者』といえるでしょう。